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インド事報・インド徒然 ―――――― by はぐれ雲さん
☆ ムンバイ・テロ事件2 ――――――――――――― 2008/12/10

――― パキスタン経済危機〜テロの背景
今年2月の総選挙、パキスタン人民党(PPP)が圧勝した。第2党のパキスタ
ンムスリム連盟・シャリフ派(PML−N)と連立を組んだが、両派の関係がギ
クシャクし続けている。

8月の選挙でPPP党首のザルダリ氏が大統領になるにはなったが、未だ政体
は流動的で、明確な政策が打ち出せないでいる。そんな状況下、パキスタン経
済が危機状態に陥っている。

ムシャラフ前大統領が失墜した背景には様々な要因があった。最も大きい要因
は、

1.ムシャラフ前大統領のアメリカ寄りの外交と国内テロ対策。

イスラム過激派のラシュカレ・タイバは、一般庶民にとってはカシミールでイ
ンドと戦うパキスタンの英雄的存在であった。当然、パキスタン政府・軍情報
部とも密接な関係にあっただろう。

タリバンの地盤は、アフガニスタン南部・パキスタン北西部の山岳地帯・国境
沿いに住むパシュトゥーン人の社会、パキスタン軍によるタリバン・テロリス
ト掃討作戦は、同胞を攻撃するに等しい。

アメリカの圧力に負け、一般住民まで巻き込んでタリバン攻撃を強行する親米
ムシャラフ政権に対し、国民の批判が高まり不満が鬱積していた。赤いモスク
に篭城したイスラム教学生を武力で掃討した「赤いモスク事件」も記憶に新し
い。

そんな状況下で起きたブット元首相の暗殺、パキスタン国民が反ムシャラフの
政党に票を入れるのは当然といえば当然だろう。

2.パキスタンのこの数年のGDP成長率は平均7%、

見かけ上は安定的・持続的成長を遂げている。だが、昨年来、庶民には不況感
が漂っていた。12%を超えるインフレ、ガソリン・穀物など重要生活物資の
価格大幅上昇…、一般庶民は生活苦に喘いでいた。

総選挙の結果は、一般庶民の不満の現れであり、インフレ・経済対策に対する
新政権での期待でもあった。PPPもPML−Nも経済改革・生活改善を公約
していた。

国民の新政権に対する大きな期待にも関わらず、経済も生活環境も悪化の一途
を辿っている。新政権は一切無策のようだ。世界の経済環境が激変・激動して
いる事も、パキスタン政府が何もできない原因であろうが…。

昨年秋に12%であったインフレ率は、今年4月頃には約15%となり、この
数ヶ月は約25%まで上昇している。公定歩合は13%から15%に引き上げ
られ、銀行の貸し出し金利は20%を超える高金利となっている。

ーーー誰も銀行から資金を借りられないのが実情である。当然、自動車ローン
など組める筈もない。地震や洪水などの自然災害も悪影響を与えている。

そこにきて、米欧から始まった金融危機・景気後退、世界の実体経済に大きな
影響を与え始めている。当然、パキスタンも悪影響を被っている。

高インフレ、政情不安、景気後退、パキスタンは今トリプルパンチを浴びてい
る。そしてパキスタンが関与しているとされる今回のムンバイ・テロ事件。

インドとの緊張が高まる中、パキスタン一般庶民は更なる経済の冷え込みとい
う強い不安と不満を抱いている事だろう。矛先は無策の現政権に向けられる。

ーーー外交政策に変化も起きている。

以前よりパキスタン政府は、外資誘致策として経済特区を設定、経済特区に進
出する外資には5年間法人税免除の優遇策を適用してきたが、突如、この優遇
策を廃止してしまった。但し、中国だけは例外扱いで、税免除の優遇措置が執
られている。

これは何を意味するのか? パキスタン政府の中国傾斜を示す政策だろうか?
そういえば、先月、パキスタンは中国に原発開発に関する協力要請を行ってい
る。今回のムンバイ・テロ事件にも中国製手榴弾が使われたという報道があっ
た。かなりの量の、武器を含む中国製品がパキスタンに流れているのだろう。

9月に発生したイスラマバードの外人宿泊客の多いマリオット・ホテル爆破事
件、外人、特に英米人を狙った犯行だろう。1トンに近い爆薬を使用したとい
われている。

次のターゲットをムンバイにしたのだろうが、1トンの爆薬を仕掛けるのはか
なり難儀である。そこで銃火器を使う事にしたのだろう。目的は無差別・大量
殺戮…。5000人がターゲットだったという報道もある。

犯人グループの犯行声明は今のところない。インドに不安を煽る事が目的だか
らだろう。実体を見せないほうが恐怖感を煽る。「次の攻撃もあるぞ」という
暗黙の脅しにもなる。パキスタン国内のテロリスト・グループも単一ではなく
複数だろう。人口1億6千万人のパキスタン、色々な種類の人間がいても不思
議ではない。

インドも同様である。今回のテロ・グループには背後に資金力のある黒幕が控
えているだろうが、世界には色々な考え方の金持がいるだろう。パキスタンと
は限らない。中東産油国にもイギリスにも過激派シンパがいると思う。

パキスタン政府は窮地に陥るのは必至。欲求不満が蓄積した一般庶民の中には
「パキスタンは軍政権のほうが望ましい」というような声まで上がっているそ
うだ。

今回のムンバイ・テロ事件は、パキスタン現政権打倒まで視野に入れた戦略な
のだろうか? ムシャラフ氏の再登場はありえるのだろうか? 事態は混沌と
してきた。世界を混沌とさせる事、それがテロリストの真の狙いだろう。

――― ライスはスライス〜OB

米ライス国務長官がインド入り、インド政府と‘ムンバイ・テロ事件の真相究
明’と‘今後のテロ対策’が協議される。テロ否定で両国が意気投合するのは
当たり前の事で大した意味もない。

焦点は、インドが‘アメリカの論理’‘アメリカ一極主義的テロ対処方法’を
認めるのか、若しくはインドが‘アメリカの論理’を否定し‘インドの論理’
を主張するのか…、今後の世界に大きく影響するポイントである。

9・11事件以降、アメリカの言い分は「被害者意識」「復讐の念」「アメリ
カ国粋主義」から発せられた論理に近い。歴史的に真珠湾攻撃以外に本土を他
国に攻撃されたことがないアメリカ、9・11で初めて本土を攻撃されたとい
う「屈辱」に近い思いがあるようだ。

アメリカ本土・アメリカ国民の防衛と安全保障をお題目にテロ戦争に突っ走っ
た。本音も建前も、アメリカ本土・アメリカ人のみを対象にしたテロ対策であ
る。

アフガニスタン・イラクの一般住民が何人死のうと、「彼等はアメリカの安全
保障のための犠牲者であり、仕方がない」と簡単に片付けている。誤爆・誤射
による一般住民殺傷も多い。

「テロリストは絶対悪、アメリカはテロを撲滅する使命がある」と繰り返し、
それ以上の議論をしようとはしない。完全にアメリカ一極主義にマインド・コ
ントロールされているようだ。

アメリカは「テロリズムを何故根絶できないのか」を真面目に議論しない。議
論を拒否している。世論が「テロリズムの根源は物理的・精神的貧困問題にあ
る」と訴えても馬耳東風である。「力が万能」と勘違いしているようだ。

力では心を直せない。逆作用だろう。無用な殺戮を繰り返し、テロを撲滅する
どころか、テロリズムを醸成し、テロリストを世界に分散させているのが現実
である。

オバマ氏も‘同じ穴の狢’かもしれない。「栄光あるアメリカ、アメリカ人の
為のChange」選挙中‘For America, For American’と何回連発した事か…。

ーーー前々から、イラク早期撤収とアフガニスタン増派を訴えている。タリバ
ンのジェノサイド? タリバンと話し合う余地はないのだろうか?

ムンバイ・テロ事件は、本質的にアフガニスタンにいるアルカイダとタリバン
対策にも繋がる。ライス国務長官は、アルカイダとタリバン対策の重要性を強
調し、アメリカのパキスタン領土内での攻撃に関し、インド側の理解と賛意を
求めるだろう。

インドは、国家主権と法(国際法)を重んじる国である。

パキスタン政府が了承してない、むしろ抗議しているアメリカのパキスタン領
侵犯攻撃に対し、強い不快の念を表明している。ーーーライス国務長官の投げ
るボールはスライスし、OBとなるだろう。

一方、インドはパキスタン政府に対し、テロリスト放任を非難するとともに、
テロリスト取り締まり強化、関係者逮捕、逮捕者のインドへの引渡しを要求し
ている。だがそれが精一杯のインドの抗議だろう。お互いに法治国家である。

インド国民は今回のムンバイ・テロ事件で興奮し、インド政府の弱腰を批判し
ている。野党インド人民党は、与党攻撃のチャンス到来とばかり、国民会議派
に対して非難攻勢をかけている。

インドが強腰になれば、その延長線上に武力衝突があり、戦争がある。それは
「ラシュカレ・タイバの思う壺」、彼等の本望が達成される事になる。今は冷
静さを失わず、法に基づき対処する事が肝要だろう。さもないとインド国内で
ヒンズー・イスラム教徒間の諍いが始まる可能性もある。

テロリズムは宗教には無縁の世界観だろう。心を救おうとするのが宗教なら、
心を放棄して自暴自棄の世界に埋没するテロリスト、イスラムの世界とは無縁
な、自己本位の世界観に支配されているようでもある。

核保有国のインド・パキスタン、常に戦火を避けるベストの方法を模索する事
が両国の宿命となっている。アメリカの下手な介入は、パキスタン人を激怒さ
せ、インドをテロ戦争の渦に巻き込む危険性がある。要注意である。

インドは捜査協力しかアメリカに依頼しないだろう。パキスタンの混乱はイン
ドのリスクであり、核保有国の混乱は不安な世界を作り出す事になる。アメリ
カはどう反応するだろうか?

4日、印パ両国のイスラム教徒が‘犠牲者追悼’と‘テロに対する抗議’のデ
モを行った。一般庶民の反テロ・エネルギーが大きくなり、結果として‘テロ
撲滅’に対する両国の協力関係強化に発展すれば良いのだが――――。

一般庶民が立ち上がれば、テロリストの行動範囲は狭まり、やがてマインド・
コントロールから目覚めていくことにもなろう。そう願いたい。

                        = この稿おわり =
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